Air Language NewsBullet n°031
2023/07/12 (Wed) 20:30
「空中の本へ」をテーマに、
書籍、映像、展示、イヴェント、
芸術にまつわる対話やノートなど、
多様な記事をわずかずつ、月9回ほど無料配信、
[TH Grid]のアーカイヴ思想も紹介します。
*
伊良子清白の詩碑「島」
photo : Yusuke Omuro
鳥羽市の公園に記念館として再移築され保存されている
伊良子清白「漂泊する家」の前庭には、
平出隆の考案・組版、大室佑介の設計で
小さな詩碑が建てられています。
最近そこを訪れた方からの、感想のお便りをご紹介します。
*
昨年大晦日から今年元旦にかけて、老母を伴って鳥羽で過ごしたのですが、一月一日、伊良子清白旧居を訪ねて「島」の詩碑に目と心を洗われました。
じつはこの石碑の存在が念頭になく、旧居の前庭で、あ、なにか、うつくしいものがある…と気配を感じて、碑面を読み、背面の「文字組 平出隆」という極小の刻字を読んで、ようやく事態を把握して驚愕した次第でした。
思いがけず、異形の、けれどもまぎれもない「本」そのものに出会したという驚愕で、何はなくとも、何がなんでも、「本が存在する!」という感動でした。
大地からかろうじて顔を出したような重量感と、そこから身を起こそうとする運動への予感と。
平滑で堅固な表面への刻字の、まるで息を吹きかけたような浅さ、軽やかさと、不可逆的、決定的な鋭さ、激しさと。
そうした諸矛盾の統合物が、漢字と平仮名からなる、明朝体の14行の詩が展開し、物質化したものであることは明らかでした。
書物の起源である石碑が、かくも清新に「来るべき書物」として蘇ったこと、いま思い出しても、胸が熱くなります。
「島」詩碑に感動のあまり、書物の起源である石碑が最終の書物でもあったのか!と本山桂川『写真・文学碑 忘れじの詩歌』、同『写真 近代文学碑の旅』、宮澤康造『写真譜・詩碑百選 詩人のふるさと』、北原白秋生誕百年記念行事委員会事務局編集『白秋の文学碑』をひもといてみましたが、類似した形状の石碑はひとつも見つけることができず、「島」がまったくオリジナルな造形物であることを知りました。
あの碑面の地面に対する低さ、水平からわずかに仰角の角度、文字の線と彫りの極限的な細さと浅さ、それを支える石質の余白の広がり、正確に直角の矩形のエッジ、垂直の断ち落とし…
石碑と詩集との混血児、突然変異体、古くて新しい、新種の本の一個体…
『ファウスポ』が転生を重ねて『ALNB』となったように、伊良子清白の詩と平出隆によるその読解が、あの石塊に変成した…『校本宮澤賢治全集』が天沢さん、入沢さん、吉岡さんのPoetical Worksだったように、詩碑「島」はべらぼうにうつくしい詩の仕事だった…等々の思いを新たにしております。
j. k.
air language newsbullet n°031
by
Institute for Air Language
airlanguageprogram.com
書籍、映像、展示、イヴェント、
芸術にまつわる対話やノートなど、
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伊良子清白の詩碑「島」
photo : Yusuke Omuro
鳥羽市の公園に記念館として再移築され保存されている
伊良子清白「漂泊する家」の前庭には、
平出隆の考案・組版、大室佑介の設計で
小さな詩碑が建てられています。
最近そこを訪れた方からの、感想のお便りをご紹介します。
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昨年大晦日から今年元旦にかけて、老母を伴って鳥羽で過ごしたのですが、一月一日、伊良子清白旧居を訪ねて「島」の詩碑に目と心を洗われました。
じつはこの石碑の存在が念頭になく、旧居の前庭で、あ、なにか、うつくしいものがある…と気配を感じて、碑面を読み、背面の「文字組 平出隆」という極小の刻字を読んで、ようやく事態を把握して驚愕した次第でした。
思いがけず、異形の、けれどもまぎれもない「本」そのものに出会したという驚愕で、何はなくとも、何がなんでも、「本が存在する!」という感動でした。
大地からかろうじて顔を出したような重量感と、そこから身を起こそうとする運動への予感と。
平滑で堅固な表面への刻字の、まるで息を吹きかけたような浅さ、軽やかさと、不可逆的、決定的な鋭さ、激しさと。
そうした諸矛盾の統合物が、漢字と平仮名からなる、明朝体の14行の詩が展開し、物質化したものであることは明らかでした。
書物の起源である石碑が、かくも清新に「来るべき書物」として蘇ったこと、いま思い出しても、胸が熱くなります。
「島」詩碑に感動のあまり、書物の起源である石碑が最終の書物でもあったのか!と本山桂川『写真・文学碑 忘れじの詩歌』、同『写真 近代文学碑の旅』、宮澤康造『写真譜・詩碑百選 詩人のふるさと』、北原白秋生誕百年記念行事委員会事務局編集『白秋の文学碑』をひもといてみましたが、類似した形状の石碑はひとつも見つけることができず、「島」がまったくオリジナルな造形物であることを知りました。
あの碑面の地面に対する低さ、水平からわずかに仰角の角度、文字の線と彫りの極限的な細さと浅さ、それを支える石質の余白の広がり、正確に直角の矩形のエッジ、垂直の断ち落とし…
石碑と詩集との混血児、突然変異体、古くて新しい、新種の本の一個体…
『ファウスポ』が転生を重ねて『ALNB』となったように、伊良子清白の詩と平出隆によるその読解が、あの石塊に変成した…『校本宮澤賢治全集』が天沢さん、入沢さん、吉岡さんのPoetical Worksだったように、詩碑「島」はべらぼうにうつくしい詩の仕事だった…等々の思いを新たにしております。
j. k.
air language newsbullet n°031
by
Institute for Air Language
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