Air Language NewsBullet n°081
2024/09/26 (Thu) 17:15
「空中の本へ」をテーマに、
書籍、映像、展示、イヴェント、
芸術にまつわる対話やノートなど、
多様な記事をわずかずつ無料配信、
[Field-Museum Net]の展開や
[TH Grid]のアーカイヴ思想も紹介します。
*
海辺の墓地──2
断続連載小説「初代門司駅遺構」
平出隆
photo : unknown 1881
母から聞く門司港については、最近のことから語ることにする。百歳に近づきながら、小倉の町中の介護施設に寝起きしている人を訪ねると、訪ねるたびに夢現(ゆめうつつ)の中にいる。眠っているときは、そっとしておく。ふと目覚めて親しい者が目の前にいると分ると、喜びがいっそう深まるらしいからだ。顔がひといきに綻び、幼い頃が語られる。
二〇二四年八月の帰郷の時は、錦町小学校で転んだ、といった。
「まあ、立派な小学校でねえ、錦町小学校は。そこで私、転んだ。」
そういって、自分を指差し、首をすくめて笑った。
二〇二二年十二月の帰郷の時は次のような夢語りだった。門司港の波止場で、大きな船が出港しようとしている。
「見送りはたくさん、そこに赤ちゃんをおんぶしたお母さんが、走ってね、船を追いかけるの。船の上のお父さんを探して一所懸命、走り寄って行くんだけど、人混みで見つけられないのよ。向うからは見えているのに。」
その光景を悲しむ表情ではなく、行違いに心が騒いでいる。悔しそうに首を傾げ、笑みさえ浮べている。
何度も聞くうち、見送りの若い母親は、彼女自身の投影なのかとふと思えた。
*
Field-Museum Net は
「初代門司駅遺構」保存活動を支援しています。
*
air language newsbullet n°081
back number
by
Institute for Air Language
airlanguageprogram.com
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断続連載小説「初代門司駅遺構」
平出隆
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母から聞く門司港については、最近のことから語ることにする。百歳に近づきながら、小倉の町中の介護施設に寝起きしている人を訪ねると、訪ねるたびに夢現(ゆめうつつ)の中にいる。眠っているときは、そっとしておく。ふと目覚めて親しい者が目の前にいると分ると、喜びがいっそう深まるらしいからだ。顔がひといきに綻び、幼い頃が語られる。
二〇二四年八月の帰郷の時は、錦町小学校で転んだ、といった。
「まあ、立派な小学校でねえ、錦町小学校は。そこで私、転んだ。」
そういって、自分を指差し、首をすくめて笑った。
二〇二二年十二月の帰郷の時は次のような夢語りだった。門司港の波止場で、大きな船が出港しようとしている。
「見送りはたくさん、そこに赤ちゃんをおんぶしたお母さんが、走ってね、船を追いかけるの。船の上のお父さんを探して一所懸命、走り寄って行くんだけど、人混みで見つけられないのよ。向うからは見えているのに。」
その光景を悲しむ表情ではなく、行違いに心が騒いでいる。悔しそうに首を傾げ、笑みさえ浮べている。
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